福岡高等裁判所宮崎支部 昭和62年(ネ)34号 判決 1988年6月29日
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の訴をいずれも却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一 申立
一 控訴人
原判決を取り消す。
(本案前の申立)
被控訴人の訴をいずれも却下する。
(本案の答弁)
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 主張
一 被控訴人の請求原因
1 控訴人は昭和四〇年六月一六日中小企業等協同組合法に従い設立された法人で、被控訴人はその組合員である。
2 控訴人は
(一) 昭和五八年六月九日通常組合員総会(以下「甲総会」という)を開催し、宇宿敏行、新橋政道、小村優、岡本伍市を各理事に、富永時寛、小松教人を各監事に各選任する旨の決議(以下「甲決議」という)が行われたとして、昭和五九年一〇月二六日その旨登記申請して同登記がなされ、
(二) 昭和六〇年七月三〇日通常組合員総会(以下「乙総会」という)を開催し、前記宇宿、小村、岡本、新橋を各理事に、角田裕司、東弘毅を各監事に各選任する旨の決議(以下「乙決議」という)が行われたとして、同年九月一三日その旨登記申請して同登記がなされている。
3 しかし、甲総会は存在せず、従って甲決議も存在しない。よって甲決議により理事に選任されたとする宇宿は理事長資格がないから同人によって招集された乙総会も存在せず、乙決議も存在しないこととなる。
二 控訴人の答弁と主張
1 (本案前の抗弁)
被控訴人は組合費の納入をしないので、控訴人は、昭和六〇年二月二四日被控訴人宛督促状を発したが、納入期限に納入がなかった。そこで控訴人は、昭和六一年三月二日理事会、臨時総会(以下「丙総会」という)を開き、被控訴人の除名を決議し(以下「丙決議」という)、同年三月一〇日付書面(同月一一日被控訴人に到達)で通告した。
よって被控訴人はもはや組合員でなく原告適格がない。
2 (請求原因の認否)
請求原因1、2は認める。同3は甲総会が現実にその日に開催されていないことは認め、その余は争う。
3 抗弁
(一) 控訴人組合は、専務理事富永時寛の招集により、(1)昭和五七年一二月一九日ケイテン産業で、(2)昭和五八年一月三〇日前同所で、(3)昭和五九年一〇月七日東郷町若アユ荘で、各臨時組合員総会を開催し、(1)に於て当時の名義上の代表理事松迫安男の解任を、(2)に於て甲決議並びに宇宿敏行を代表理事に選任する決議を、(3)に於て右(2)の決議を再確認し、追認した。
(二) 富永は当時右各臨時総会を招集する権限を有していた。即ち、組合の定款によると専務理事は理事長が欠員のときはその職務を行うものとされ(二七条)、当時後記(三)のとおり理事長は欠員となっていたから、富永は元来理事長に属すべき総会招集権限を有していた。
(三) 当時組合の代表理事は登記上は松迫であった。即ち商業登記によると、松迫は昭和四八年六月九日、代表理事に就任、その後同五〇年六月九日任期満了に伴い重任し、同様同五二年同五四年、同五六年の各年六月九日にそれぞれ重任となっている。然しながら、右同人の代表理事の就任は、福寿十喜の指示で前記富永が総会を開かず、資格のない松迫を代表理事に就任させたもので、本人の知らない間に同人が昭和四八年六月九日に遡って就任した如く、そうして二年毎に重任の決議をなされた如く仮装し、すべて同五六年九月二八日一括して不実の登記がなされていたものである。
右事実によれば、組合の代表理事(理事長)は、福寿十喜が退任した日(右不実登記で松迫が就任したとされている昭和四八年六月九日)以来欠員状態にあったというべきである。
(四) 被控訴人は、前(一)の(1)、(2)の臨時総会における決議及び追認に基き甲決議の登記をしたものであるが、既に代表理事の任期が昭和五八年六月八日で満了しているため、登記手続の便宜上、その翌日を総会日(甲総会)として登記したものである。右総会の日時、場所、出席者等に若干の不実部分があっても小規模組合では登記の便宜上、通常頻繁に行われるもので、前記のとおり適法な決議及び追認がなされている限り、決議不存在ということはない。
(五) 乙総会は前記宇宿が適式に招集して適式に開催し、乙決議がなされたものである。
三 控訴人の主張に対する被控訴人の認否及び反論
1 本案前の抗弁について。
丙総会の招集並びに丙決議の存在は不知。
仮に右総会の招集、決議がなされたとしても、その招集した新橋政道は、乙総会で理事及び代表理事に選任されたとされる者であるが、乙総会決議自体不存在なることは本案主張のとおりである。
2 本案の抗弁に対して。
その(一)は不知。その(二)は定款に主張のような定めがあることは認め、その余は争う。その(三)、(四)、(五)は否認。
甲決議がなされたという会合の招集は招集権のない富永によって招集されているから総会としての効力がなく甲決議は不存在である。
第三 証拠関係(省略)
理由
一 控訴人が昭和四〇年六月一六日中小企業等協同組合法に従い設立された法人であること、その商業登記上に甲、乙決議に基づく各登記記入がなされ、控訴人がその有効性を主張していることは当事者間に争いがない。
二 被控訴人は、現に控訴人の組合員であると主張して、甲、乙両決議の不存在の確認を訴求しているところ、被控訴人の現組合員資格(原告適格)に争いがある。
原審における控訴人代表者本人の供述及びこれにより成立を認め得る乙第三二ないし三八号証(但し、三七、三八号証中官署作成部分の成立は争いがない)、同第四〇ないし四三号証、成立に争いのない同第四四号証の一、二によれば控訴人主張のような経過で丙総会が招集され、その主張どおりの理由で丙決議(被控訴人の除名決議)がなされ、その通告書がその主張の日に被控訴人に到達した事実が認められる。
三 しかるに被控訴人は、丙総会を招集した新橋政道は、被控訴人が本訴でその不存在を主張する乙総会・決議により表見理事長職にあるに過ぎないから、総会招集権限はなく、丙総会・決議も不存在である旨主張している。しかして、丙総会・決議の効力につき他に主張・立証はないので、結局本件においては、控訴人主張の原告適格の有無の判断のためにも、まず本案の争点である甲乙両総会・決議の存否・効力を判断すべきこととなる。すなわち、双方の弁論によれば、乙総会・決議の存否(適法性)も結局は甲総会・決議の存否(適法性)にかかってくることとなるからである。しかしてその主たる争点は、甲総会を招集したとする富永の総会招集権限の有無にかかるものということができる。
四1 請求原因2の各事実は当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第一号証の一ないし四、原審証人富永時寛、同新橋政道(第一回)の証言により成立の認められる乙第一四号証の一ないし三、同第一五号証の一ないし三、同第一六号証の一ないし四、右両証言により昭和五七年一〇月七日若あゆ荘における会合の写真と認められる同第一七号証と原当審証人富永時寛、同新橋政道(原審は第一回)の証言を総合すると抗弁(一)の事実が認められ、原当審証人松迫安男の証言中これに反する部分はたやすく措信し難く、他にこれに反する証拠はない。
3 成立に争いのない乙第一ないし第六号証、原審証人富永時寛の証言によって成立の認められる同第七号証、成立に争いのない同第一八号証の一ないし八、同第一九号証の一ないし一〇と原当審証人富永時寛、同新橋政道(原審は第一回)、同松迫安男(各一部)の各証言を総合すると抗弁(三)の事実及びその後右抗弁(三)の事実が組合員間に知れ、代表理事を改めて選出し直すべきであるとの声が上り、形式上は松迫が代表理事となっているため、組合員の一部や富永などが松迫に対し総会招集の手続を採るよう再三要請したが同人がこれに応じないため、富永が専務理事たる立場で前記抗弁(一)の各会合を招集したことが認められ、原当審証人松迫安男の証言中右認定に反する部分はたやすく措信できず、他にこれに反する証拠はない。
4 控訴人組合の定款(成立に争いのない乙第四七号証)によれば、「専務理事は理事長が欠員のときはその職務を行う。(二七条三項)」と規定されている。前認定の抗弁(三)の事実によれば、控訴人組合の理事長(代表理事。定款同条二項)は福寿十喜の退任後欠員となっていたものということができる。もっとも、原当審証人松迫安男の証言によると同人は右不実の就任登記のあることを知った後、将来に亘ってその地位にあることを事実上容認したとみられなくはない(しかし、理事長としての実務は何ら執行したことがない)が、たとえそうであっても、同人の選出につき適法な総会の選挙(定款第30条)がなかったことは前認定のとおりであるから、同人が受け容れたことによっては理事長の地位を得たものということはできない。
そして当審証人富永時寛の証言によれば同人は控訴人会社の設立当初から専務理事に就任していた者で、前認定の抗弁(一)の各会合の開かれた時までにこれを失った事実は認められない(被控訴人は、同人の専務理事就任につき理事会の決議〔定款二七条一項〕を欠くと主張するが、前掲証言によると、当時の理事長福寿十喜が総会の席上で指名しその承認を得ていることが認められるから、これに先立ち又はこれと併せ、理事会の明示又は黙示の選任決議が存したものと推認し得る。)。
5 なお原当審証人富永時寛、同新橋政道(原審は第一回)、同松迫安男の証言によれば、松迫は前記代表理事選任の登記がなされていることを知った後、その抹消に努めようとしたことはなく、かえって前示総会招集手続の要請に対しても、自己の解任決議に連ることを察知してこれを拒むなど、主観的には代表理事たることを受け容れ、その権限を行使しようとしており、前示抗弁(一)の各会合の招集は、右松迫の意思に反するものであることが認められる。しかし前示のとおり右松迫の代表理事就任は、その法的事実が全く存しなかったのであるから、後当人がこれを受容する意思を示しても、それによって法律上代表理事に就任したとすることはできず、右松迫が総会招集手続を拒んでいたことも専務理事たる富永が定款二七条に基づき招集手続を採ることの妨げとならない。
6 以上によれば、前示抗弁(一)の各会合は専務理事富永時寛が定款二七条三項に基づき適法に招集した控訴人組合の臨時組合員総会に当たると認めることができ、右三会合を通じて実質的に甲決議同旨の決議が採択されたことが認められる。よって甲総会・決議は実質上不存在ということはできず(登記上の登記原因たる退・就任の日が右事実上の決議の日と異なることは、右認定の妨げとならない)、またこれを無効とすべき事由は見出せない。
五 右のとおり甲総会・決議が実質上有効に存在する以上、被控訴人の主張によるも乙・丙各総会・決議はそれぞれ有効に存在することとなるのであるから、前示二認定の被控訴人に対する除名決議は有効にして、被控訴人は現に組合員資格を有しない。
六 よって、被控訴人が原告適格を欠く旨の控訴人の本案前の申立は理由がある。するとこれと異なり被控訴人の原告適格を肯認し本案請求の当否を判断した原判決は不当であって、本件控訴は理由がある。民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。